コンピューター業界の片隅にひっそり生息するマニュアル制作会社ならではの、ニッチでユニークなコトバ使いを解説する連載記事「マニュアル業界用語解説」。今回のお題は「編集」です。出版や映像とは少し異なるこの業界ならではの「編集」の意味と、その担い手の実態について解説します。
素材を集めて束ねてまとめてくれる存在
「編集」は、出版業界のように書籍を扱う業界の言葉としてよく耳にすると思います。出版物の素材 (文、文章、音声、動画) を、その成果物の目的や意図に沿って確保・選択・構成・配置する作業のことを指す言葉です。その作業を担当する人を示す「編集者」となると、書籍の著者のマネジメントや、著作活動の支援をする人をも意味します。
映像業界では「小さい単位で撮影された映像を巧みに繋ぎ合わせる人の作業」を意味します。映画の編集者となると、ただ脚本に沿ってシーンをつなぎ合わせているように見えて、実は映画のストーリーに一定のテンポを与えたり、観客にとって目が離せない映像づくりに貢献するという、極めて重要なポジションです。
出版業界も映像業界も、ひとつの成果物に必要な素材を集めて束ねる存在、というところは共通しています。当マニュアル業界も同様で、マニュアルの素材となる要素を集めて、ひとつにまとめあげる作業を「編集」と呼んでます。

まとめる人がいないと成果物はできあがらない
マニュアルは、必ずしも文や文章だけで構成されるとは限りません。図説やイラスト、スクリーンショット、体裁を形作るデザインパーツなど、さまざまな要素の集合体です。文や文章はライターの務め、イラストはイラストレーターの務め、紙面デザインはデザイナーの務め、それらをデータとして構築するのは DTP の務め、それぞれ役割分担のうえで作られます。誰かがそれらの要素をひとつに束ねなければなりません。役割分担が行き過ぎると、自分の受け持ち領分しか気にしませんから、ほっといたらいざひとつにしたときに何だかおかしなかたちになりかねません。
だから最終的にひとつにまとめてくれる存在というのは必要にして不可欠です。そして、ひとつにしたときに、各要素に何らかの過不足が見つかったら、その要素の作成を担当する人に正しい状態となるように修正を依頼するのもまた編集の人間の役割ですから、重要な役割です。

コーディネーターみたいだけどちょっと違う
その「編集」を、その作業を担当する人間としてとらえると、以前の記事で解説した「コーディネーター」と同じテイストがあります。ライターや DTP、イラストレーターみたいに明確な実務内容があるわけではなく、そういう作業に従事する人をうまく動かして成果を出すという点はよく似ています。実際、スケジュールは編集担当の役目となっているケースもありますから、共通点は多いです。

違うとしたら、コーディネーターは「人を動かす」ことに重きがあるのに対し、編集 (者) は「素材をどうする」に重きを置いているというニュアンスを持つこと、でしょうか。あとは、コーディネーターはどちらかというと営業寄り、編集は制作寄りです。被る部分も多いのですが、コーディネーターは進行管理、編集はコンテンツの質がその役目の主眼だと解釈するのが妥当だと思います。
それはふわっと便利な呼称
視点を変えて解説しますと、「編集」という言葉は、マニュアル業界の文脈においては「ライティングでも翻訳でも DTP でもない制作作業において必須の作業だがライティングでも翻訳でも DTP でもないので何とも呼び表しようがない作業」をふわっとまるっと指し表す都合のよいものとして用いられています。
そして実は、少なくとも弊社 (パセイジですよ、みなさん) では、機能を示す意味で「編集」という言葉は使いますが、なぜか不思議と「編集者」とは言いません。それどころか、制作会社によっては編集専門スタッフもいるらしいのですが、弊社には「編集」という職種も部門もなく、プロジェクトのメンバーの誰かがその実務をなんとなく負担してそれで片付いています。実際、DTP が本文中の用語のバラつきを見つけて自主的に揃えたり、さりげなく誤記を修正しており、それを指して「DTP だけど編集までやっている」と言われます。実に宙ぶらりんな状態なのに自然発生的に誰かが手を伸ばして、さりげなく片付けてそれで済んでいるから実に不思議です。まぁ、ちょくちょく「ボールが落ちる」状態に陥るのを、気づけば誰かが拾ってくれているというだけなのですが。
ところでこの「編集」ですが、ときとしてネガティブな意味で用いられることがあります。クライアントから「そんな仕事ぶりでは、おたくはただの編集屋じゃないか」というお世辞にも誉め言葉とは言えない苦言を頂戴することがあります。前述した「ひとつにまとめるという重要な役割」とは程遠いニュアンスです。もっとも、編集という言葉に罪があるわけではなく、そのクライアントも弊社に対する期待があるからこそそのような発言に至ったと思われ、制作会社の身分としてはその期待に応えられるように常日頃からココロがけたいと思います。実に身も蓋もない言われようですから、くれぐれもそんな言われかたをされないように善処します……。


