マニュアル業界用語解説「コーディネーター」とは?

コンピューター業界の片隅にひっそり生息するマニュアル制作会社ならではのニッチでユニークなコトバ使いを解説する連載の第6回目。今回は「コーディネーター」といういわゆるひとつのカタカナ職業についての解説です。カタカナ職業に特有の「何をやっているのかよくわからない」感満載な言葉ですが、マニュアル業界にも確実に存在する「コーディネーター」という立場の人たちの仕事の役回りについてお話ししたいと思います。

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組織はコーディネーターで溢れている?

そもそも「コーディネーター」というのは「コーディネートする人」を指す言葉ですが、「コーディネート」だけでは何をする人なのか明確ではありません。単独で「コーディネーター」と呼ぶのはあくまでも省略表現であり、「〇〇コーディネーター」というように先頭に「コーディネートする何かを」を示す言葉がくっつくのが一般的です。その「何か」は業種によって千差万別ですから、世の中のさまざまな企業において「コーディネーター」を名乗る人たちがあまた存在します。ちょっと調べてみるといっぱいあります;ファッションコーディネーター、インテリアコーディネーター、カラーコーディネーター、プロモーションコーディネーター、フードコーディネーター……どれもこれも「コンサルティング (する人)」みたいなニュアンスを感じます。

さて、当業界……というよりパセイジでの実情になりますが、弊社にはマニュアルの制作と印刷のどちらも事業として手掛けており、制作の一部として翻訳を手掛けています。そして、それぞれの分野でコーディネーターがいます。制作コーディネーター、翻訳コーディネーター、印刷コーディネーターです。

制作コーディネーター

マニュアル業界での「制作コーディネーター」は、マニュアル制作の工程全般を管理して制作がスムーズに進むように取り計らう立場の人間を指します。

社内的には、ライティングや DTP、翻訳などの実務に直接手を下さない代わりに、クライアントとの窓口となって指定された納期に基づきスケジュールを立案したり、クライアントと現場との間の窓口となるなど、制作を進めるための進行管理的役割を担う存在です。現場から見れば日程調整など何かあったときの相談先となりますし、顧客から見れば依頼先の制作会社を代表する「顔」となる立場になります。

パセイジでは、営業職の人が制作コーディネーターです。クライアントと制作現場の間に立ち、お客様の代弁者としてその要望を制作現場に伝えつつ、現場の進行に応じて適宜クライアントと日程の調整をするのがその役目です。実務上の進行管理に従事する人、です。

マニュアル業界のコーディネーターはいわゆるプロジェクトマネージャーに似ているかもしれません。実際に、業界の企業によっては「ディレクター」など別の呼称を用いていたりするようです。

なお、マニュアルにデザイン性が皆無とまでは言いませんが、「コーディネート」と言われてすぐ連想する「外面の装飾のよさ」を追求するわけではありません。

翻訳コーディネーター

製品がグローバル展開されている現在では、その製品に付属するマニュアルも多様な言語に展開されています。そこでマニュアルをさまざまな言語に翻訳する必要があり、どちらかというと技術的な内容であるマニュアルのコンテンツを正確かつ自然な言語の訳文となるように翻訳展開するための世話役が「翻訳コーディネーター」です。

パセイジでは制作スタッフに翻訳コーディネーターが在籍しており、必要な言語の翻訳者に翻訳手配をし、その訳文が正確で自然な言葉の翻訳となるように品質管理まで手掛けています。今では標準的に用いられるようになった翻訳支援ツール (有名どころでは TRADOS) による前処理・後処理も重要な作業です。また、技術的な内容に関する翻訳者から寄せられた疑問を社内のマニュアルライターやクライアントの設計担当者に問い合わせて疑問解消に努めることもあります。

印刷コーディネーター

一般的にマニュアルは印刷物として世間に提供され、製品といっしょに工場で箱に梱包されます。電子マニュアルがだいぶ増えた今でも紙のマニュアルがゼロにはなっていませんから、印刷して工場に納品する必要があるわけです。その印刷物としてのマニュアルについてトータルにケアするのが「印刷コーディネーター」です。制作コーディネーターと同様、パセイジでは営業職の社員が印刷コーディネーターです。

印刷とひと口に言いましても考慮しないといけないことがたくさんあって、たとえば製本 (綴じ) と紙質などをコストに応じて印刷コーディネーターが適切に選定したりします (ただしマニュアルの場合は事前にクライアントから指定されることのほうが多いかも)。工場への納品までのスケジュール管理と在庫管理、品質管理までも印刷コーディネーターの対応範囲です。マニュアルが出荷される国や地域によっては紙質に指定や制限がありますので、条件に合った紙での印刷対応が可能な工場を手配するのも印刷コーディネーターの役目です。

ただの営業ではないのですよと主張する便利な言葉

そんなコーディネーターですが、現実には職種名としてよりも役割を指す言葉として使われるに留まっています。翻訳コーディネーターは別として、制作コーディネーターと印刷コーディネーターはそう名乗ることはありますが、名刺には単なる「営業」程度しか明記していなかったりします。

あとは、人材募集広告で募集職種を「営業」とせず「〇〇コーディネーター」とすることが多々あります。「営業」で募集すると人が集まらないから……いえ、でも、そのほうが職種内容がハッキリするという狙いと思われます。

とはいえ、営業職たるもの本来はできるだけ多くの受注を獲得して多くの売上の達成を目指すのがその本来の役目であって、制作の進行管理まで背負い込むのは何気にタイヘンかもしれません。ひょっとすると「あれ、自分の仕事って何なの?」という、心理学用語で言うところのアイデンティティ・クライシスに直面するかもしれません (違うか)。だからといって、売上が低い営業社員が自身の営業成績の低さを目こぼししてもらうための免罪符として「コーディネーターだから」と主張するというちょっと歪んだ用いられかたをされたらイヤすぎます。いずれにしても、「営業」よりも「〇〇コーディネーター」のほうが役割が明確な気になれるということもあって、自分の仕事内容を語るときに重宝する表現なのでした。

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この記事の執筆者

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Alan SmitheePassage

制作スタッフ

執筆者プロフィール

マニュアル制作会社パセイジのしがない末端社員。マニュアル業界の仕事内容については今も昔も親兄弟や身内からいっこうに理解されていない。中判フィルムによるピンホール写真撮影という勤務先に負けずとも劣らない特異な趣味を持つがあまり撮影できていない。ひょんなことから『4.(シテン)』記事執筆者にまつり上げられ、ない知恵絞りながら記事執筆している。

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