適正工賃の裏側:フラットレートの役割

車の整備や修理をディーラーや整備工場に依頼すると、明細書の中に「技術料」や「工賃」といった項目を目にするかと思います。
普段あまり意識しないかもしれませんが、これらの金額は「整備作業ごとに設定された標準整備工数」をベースに計算されています。

では、その標準整備工数はどのように決まっているかご存じでしょうか。
自動車やオートバイのエアクリーナーの交換やブレーキパッドの交換といった作業に応じた「標準的な整備時間」が、あらかじめ数値として定められているのです。

この仕組みのことを、モビリティ業界では「フラットレート(標準整備工数)」と呼びます。
目次

なぜフラットレートが必要か?

フラットレートという基準がない場合を想像してみてください。

ひとつの修理作業に対して、整備士の熟練度によって作業時間に差が生じます。ベテラン整備士なら10分で終わる作業でも、新人整備士だと30分かかってしまうこともあります。

もし、実際にかかった時間で工賃を計算すると、新人整備士が担当した時には、ベテランが担当した時の3倍の工賃を請求する、ということになります。
また、同じメーカーの正規ディーラーに作業を依頼しても、店舗によって工賃が大きく違うといったことも起こってしまいます。

これでは整備を依頼したユーザーは不公平だと感じ、安心して作業をお願いできないのではないでしょうか。

誰が作業しても、支払う工賃を公正明朗に保つ基準が「フラットレート」です。

ユーザーにとっては、明朗会計を担保し、不明朗な請求から自身を守る基準に、
メーカーにとっては、ブレない対応によってユーザーからの信頼を守る仕組みに、
整備工場にとっては、適正な売上と利益を予測する基準として大事な指標となります。

フラットレートは、様々な立場の人たちにとっての重要な「ものさし」として、モビリティ社会の健全な取引を支えています。

フラットレート測定を外部委託する選択肢

フラットレートは一般的にメーカーが各作業毎に作業時間を測定して決定しています。

信頼性の高い数字の設定を自社で行おうとすると、かなりのリソース(経営資源)が必要になります。自社のリソースを本来の業務に集中させるためにも、フラットレート測定業務を外部に委託するケースが増えてきています。

外部委託するときの障壁

いざ外部業者に委託しようとすると、メーカーにはいくつかの壁が立ちはだかります。
大きく分けて作業の正当性」「数字の信頼性」「委託コストの3つです。
私たちは、長年培った技術と独自の環境でこの3つの壁をクリアしています。

1. 作業の正当性

当然ですが、正しい整備手順で作業が行われていなければ、標準作業とは言えません。
標準工数の算出には、無駄のない洗練された整備手順の設計が不可欠です。 

私たちは、長年にわたり各メーカーのサービスマニュアル(整備マニュアル)の制作を受託してきました。
製品の内部構造を熟知し、「誰もが安全・確実に作業できる最適な手順」を一から組み立てるノウハウを持っています。

ただ製品を分解するのではなく、構造のプロとしての深い知見があるからこそ、ブレのない「正当な標準作業」の設計が可能なのです。
サービスマニュアル(整備マニュアル)
サービスマニュアル(整備マニュアル)とは、自動車やオートバイ、各種工作機械などの点検・分解・組み立て・故障診断手順や要点、配線図、規定の締め付けトルクなどの技術情報を詳細にまとめた専門資料です。
プロの整備士が正確かつ安全に修理を行うための必須マニュアルです。

2. 数字の信頼性

フラットレートとして実際よりも多い工数が設定されていた場合、適正な価格でのサービスが提供できず、ユーザーのメンテナンス費用が必要以上に高くなってしまう恐れがあります。

一方で、実際に必要な工数よりも極端に少ない工数が設定されていた場合、整備の現場から「こんな時間じゃ到底できない」と不満が噴出し、メーカーと販売店の信頼関係にヒビがはってしまう、というケースも考えられます。

外部委託を行った際、例えば「ブレーキホースの交換は1時間」という結果だけを委託業者から提示されても、メーカーはその数字が本当に正しいのか確証を持てません。

信頼性を極限まで高めるため、私たちは「ブレーキホースの交換」という一つの作業を以下のような実作業のレベルにまで徹底的に細分化します。
  • ブレーキホースにアクセスするための周辺部品の取り外し
  • ブレーキホースの交換
  • ブレーキフルードの交換
  • ブレーキフルードのエア抜き

(書ききれないため省略しますが、実際にはボルト1本単位まで細分化します)

そして、整備現場同等の専門工具を備えた専用スタジオを自社に構え、実機を搬入して作業を行います。細分化されたそれぞれの作業が「何秒でできるのか」を一つひとつ丁寧に実測・記録していきます。

ここまでする理由は、メーカーが必要とする「強固なエビデンス(根拠)」を構築するためです。

秒単位の緻密なデータがあるからこそ、メーカーは社内だけでなく、全国の整備工場に対しても「実機でここまで検証した、確かな数字である」と明確な根拠と裏付けを持って説明・証明することができます。

3. 委託コスト

設備を整え、プロのノウハウを注ぎ込み、秒単位の緻密な測定を行っているとなると、「委託費用も相当高いのでは?」と思われるかもしれません。

しかし、メーカーが自社で同等の測定環境や体制を構築し、維持する負担を考えれば、外部への委託は合理的な選択肢となるのではと弊社は考えています。

私たちが高いクオリティを維持しながら、合理的なコストパフォーマンスを実現できているのには、以下の3つの理由があります。
①無駄を削ぎ落とす「重複作業の削減」

製品の分解・組立には、どうしても同じパーツを何度も脱着するような「重複する工程」が発生します。

私たちはマニュアル制作の知見を活かし、測定を始める前に「どの順番で作業すれば、実機を触る回数を最小限に抑えられるか」という最適な測定ルートを設計します。

現場での無駄な重複作業を減らすことで、測定にかかる時間(=コスト)を最適化しているのです。

②ヒューマンエラーを撲滅する「専用ツール」の開発

現場での実測工程を削減した分、後からデータ上でそれぞれの作業時間を足し合わせる「机上計算」が必要になります。
秒単位の膨大なデータを人の目で処理していると、どうしても加算する項目を間違えたり、同じ作業を重複して加算してしまったりといった「計算ミス」が発生します。

そこで私たちは、計算ミスの発見を補助するための専用ツールを社内で独自開発しました。

ツールでエラーを潰し、正確なデータをスピーディーに処理する仕組みを構築しているため、無駄な工数を発生させず、品質と低コストを両立できています。

③メーカーの「専門人材」を囲い込まないメリット

もしこれと同等の測定をメーカーが自社で行おうとすると、規模次第では数週間~数か月にわたって高い技能を持った専門のエンジニアを拘束する必要が出てきます。

専門の人材を確保する人件費はもちろん、本来のコア業務に集中すべき優秀なリソースが割かれてしまうことは、メーカーにとって大きな損失と言えるのではないでしょうか。

必要な時に必要な分だけクレステックに業務を委託する。

これこそが、社内の貴重なリソースを守り、結果的に最もコストを抑えられる賢い選択なのではないでしょうか。

【おわりに】三方良しのモビリティ社会を目指して

工賃が高いー。そう思うことは誰しもあると思います。
それでも、自分で整備を行った経験がある人は、必ずしもそうではないことがわかるはずです。

確実な整備を行うためには、適切な作業環境だけでなく、ある特定の整備にしか使わない高価な特殊工具が必要になることも珍しくありません。
それでも整備工場・整備士は、ユーザーに胸を張って「安心してお使いください」と言える状態で製品をお返しするために、設備だけではなく、自身の技術への投資を惜しまないのです。

そういった設備を整える費用や、専門知識・経験・技術の価値を考えれば、整備工賃は決して高くはないと感じてくるのではないでしょうか。

私たちがフラットレート測定において、ボルト1本の取り付け、秒単位の動きにまで徹底的にこだわるのは 、こうした整備現場の大変さや重要性をリスペクトしているからでもあります。

メーカー、ディーラー、そしてエンドユーザーの三者がみな納得し、安心して日本のモビリティ社会を支え合えるよう、私たちはスタジオで実機と向き合い、公平で信頼性の高い「数字」を紡ぎ出します。
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この記事の執筆者

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Satoru MorizonoCRESTEC

テクニカルライター

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