2024年11月1日の施行日が迫る通称「フリーランス新法」。
皆様の対応は順調に進んでいますでしょうか?本稿と次回10月の記事では、就業環境の整備のうち、「妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮」と「業務委託に関して行われる言動に起因する問題(業務委託におけるハラスメント)に関して講ずべき措置等」について見てまいります。
本稿は、「妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮」編です。
本稿で参考・引用している資料は、公正取引委員会>(令和6年5月31日)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の施行に伴い整備する関係政令等について のページの「関連ファイル」になりますので、あわせてご参照ください。
1 フリーランス新法の立法目的
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号。以下「フリーランス新法」)が2024年11月1日に施行されます。フリーランス新法は、働き方の多様化の進展に鑑み、特定受託事業者(以下「フリーランス」1)が受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、フリーランスに業務委託する事業者(以下「委託事業者」2)について、一定の措置を講ずることにより、フリーランスに係る取引の適正化及び就業環境の整備の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを立法目的としています。
2 委託事業者に講ぜられる一定の措置
委託事業者は、講ぜられる一定の措置について対応する必要があります。ここでいう一定の措置とは、大別すると、次の2類型になります。
(1) 下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」)と同様の規制3
(2) 就業環境の整備(労働者類似の保護)
下請法においては、(2)については規律されていない関係上、すでに(1)の対応は済んでおり、(2)についてこれから対応されるという場面を想定しています。
加えて(2)の対応項目は、
① 募集情報の的確な表示(フリーランス新法第12条)
② 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮(フリーランス新法第13条)
③ 業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等
(フリーランス新法第14条)
④ 解除等の予告(フリーランス新法第16条)
の4つからなりますが、実務上対応負担が大きいと思われる②と③についてクローズアップし、本稿では②について取り上げます。
なお、フリーランス新法には、下請法に規律される事業者の資本金要件に相当するものはありませんので、フリーランスへの発注者として全ての事業者に適用があることを申し添えます。
3 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮の概要
フリーランスに業務委託(6か月以上の期間行う業務委託又は当該業務委託に係る契約の更新により6か月以上の期間継続して行うこととなる業務委託に限ります。以下「継続的業務委託」)する委託事業者は、フリーランスからの申出に応じて、当該フリーランスが妊娠、出産若しくは育児又は介護(以下「育児介護等」)と両立しつつ業務委託に係る業務に従事することができるよう、その者の育児介護等の状況に応じた必要な配慮をしなければならないものです(フリーランス新法第13条第1項)。この配慮は義務です。
継続的業務委託以外の業務委託の場合には、委託事業は必要な配慮をするよう努めなければなりません(フリーランス新法第13条第2項)。こちらは努力義務です。
引用:
「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」p10
4 配慮の具体的事項
(1) 配慮の申出の内容等の把握
フリーランスから育児介護等に対する配慮の申出を受けた場合には、話合い等を通じ、当該フリーランスが求める配慮の具体的な内容及び育児介護等の状況を把握する必要があります。この場合において、申出の内容等にはフリーランスのプライバシーに属する情報もあることから、プライバシー保護の観点に十分に留意する必要があります。
前提として、育児介護等に対する配慮が円滑に行われるようにするためには、フリーランスが、速やかに配慮の申出を行い、具体的な調整を開始することができるようにすることが必要であり、そのためには、フリーランスが申出をしやすい環境を整備しておくことが重要になります。
- 配慮申出窓口・担当者の設定・選任
→新たに設定・選任する、既存の枠組みを活かすなど - 配慮の申出を行う場合の手続等(申出手段、受付事実の確認方法等)の整備
→新たに手続を整備する、既存の枠組みを活かすなど
→申出に際して、膨大な書類を提出させる等のフリーランスにとって煩雑又は過重な負担となるような手続は設けない(手続上の申出阻害)。 - プライバシー保護
→申出情報の共有範囲を事前に取決めた関係者に限定する、プライバシー保護に関する社内規程などがあれば周知するなど - 配慮申出窓口・担当者、配慮の申出を行う場合の手続等をフリーランスへ周知
(2) 配慮の内容又は取り得る選択肢の検討
フリーランスの希望する配慮の内容、又は希望する配慮の内容を踏まえたその他の取り得る対応について行うことが可能か十分に検討をします。
- 社内における検討手続の整備
→新たに手続を整備する、既存の枠組みを活かすなど - 検討の留意点
→配慮義務(継続的業務委託以外は努力義務)であって、希望される配慮の内容全てを実現しなければならないという義務ではない。
→フリーランスの希望する配慮の内容とは異なるものの、フリーランスが配慮を必要とする事情に照らし、取り得る対応が他にもある場合、フリーランスとの話合いを行うことにするなどにより、その意向を十分に尊重した上で、より対応しやすい方法で配慮を行うこととすることは差し支えない。
▶(3)を通じて真摯な対話が望まれる。
→業務の性質や実施体制等に照らして困難であること、当該配慮を行うことにより、業務のほとんどが行えない等、契約目的が達成できなくなること等、やむを得ず必要な配慮を行うことができないもあり得る。
▶(4)を通じて真摯な対話が望まれる。
(3) 配慮の内容の伝達及び実施
具体的な配慮の内容が確定した際には速やかに申出を行ったフリーランスに対してその内容を伝え、実施します。
- 伝達方法に限定はないが、必要に応じ、書面の交付や電子メールの送付を含めて丁寧に対応されることが考えられる。
- 速やかに実施するに当たり、社内関係者と十分に調整を行う。
- 伝達実施において真摯な対応が望まれる。
(4) 配慮の不実施の場合の伝達・理由の説明
フリーランスの希望する配慮の内容やその他の取り得る対応を十分に検討した結果、やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合には、フリーランスに対して配慮を行うことができない旨を伝達し、わかりやすく説明します。
- 理由について、必要に応じ、書面の交付や電子メールの送付を含めて丁寧に対応されることが望まれる。
- 伝達実施において真摯な対応が望まれる。
引用:
「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」p13~18
5 配慮に際し望ましくない取扱い
次に掲げる行為は望ましくない取扱いであることに留意する必要があります。
(1) フリーランスからの申出を阻害すること。
例:役員又は従業員が、申出を行うことは周囲に迷惑がかかるといった申出をためらう要因となるような言動をすること。
(2) フリーランスが申出をしたこと又は配慮を受けたことのみを理由に契約の解除その他の不利益な取扱いを行うこと。
例:① 契約の解除を行うこと。
② 報酬を支払わないこと又は減額を行うこと。
③ 給付の内容を変更させること又は給付を受領した後に給付を
やり直させること。
④ 取引の数量の削減
⑤ 取引の停止
⑥ 就業環境を害すること。
引用:
「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」p18・19
6 まとめ
繰り返しますが、フリーランス新法には、下請法に規律される事業者の資本金要件に相当するものはありませんので、フリーランスへの発注者として全ての事業者に適用があります。1,000万以下の事業者でありましてもフリーランスへ発注する場合には、フリーランス新法の適用があることに十分に留意いただき対応を進めることになります。
以下の表はイメージしやすいように便宜整理したものです。例示的な内容も含めていますので各社の実態に合わせて適宜読み替えていただければと思います。
項目 | 誰が | 何を | どのように |
妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮 | ①取引関係者で申出を受けた者、人事担当、調達担当 | 配慮の申出の内容等の把握 | 話合い等を通じ、当該フリーランスが求める配慮の具体的な内容及び育児介護等の状況を把握する。 |
把握した情報は、取引関係者で申出を受けた者、人事担当、調達担当のみで共有し、プライバシー保護に留意する。 | |||
②社内取引関係者 | 配慮申出窓口・担当者の把握 | 配慮申出窓口・担当者 調達担当 ●● | |
窓口ではなく社内関係者で申出を受けた者のとるべき措置 | 速やかに配慮申出窓口・担当者と共有する。 | ||
③取引関係者で申出を受けた者、人事担当、調達担当 | 配慮の内容又は取り得る選択肢の検討 | フリーランスの希望する配慮の内容、又は希望する配慮の内容を踏まえたその他の取り得る対応を検討する。ただし、配慮義務であって、希望する配慮の内容全てを実現する義務ではないことに留意する。 | |
④調達担当 | 配慮の内容の伝達 | 確定した具体的な配慮の内容を速やかに伝える。 | |
⑤取引関係者で申出を受けた者、人事担当、調達担当 | 配慮の内容の実施 | 確定した具体的な配慮の内容を速やかに実施する。 | |
⑥調達担当 | 配慮の不実施の場合の伝達・理由の説明 | 十分に検討した結果、配慮を行うことができない旨を伝達し、その理由について、必要に応じ、書面の交付や電子メールの送付により行うことも含め、わかりやすく説明する。 | |
⑦社内取引関係者 | 望ましくない取扱いの回避 | 申出を阻害させるような言動は行わない。 | |
申出をしたこと又は配慮を受けたことのみを理由に契約の解除その他の不利益な取扱いをしない。 |
項目 | 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮 | ||||||
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誰が | ①取引関係者で申出を受けた者、人事担当、調達担当 | ②社内取引関係者 | ③取引関係者で申出を受けた者、人事担当、調達担当 | ④調達担当 | ⑤取引関係者で申出を受けた者、人事担当、調達担当 | ⑥調達担当 | ⑦社内取引関係者 |
何を | 配慮の申出の内容等の把握 | 配慮申出窓口・担当者の把握 | 配慮の内容又は取り得る選択肢の検討 | 配慮の内容の伝達 | 配慮の内容の実施 | 配慮の不実施の場合の伝達・理由の説明 | 望ましくない取扱いの回避 |
窓口ではなく社内関係者で申出を受けた者のとるべき措置 | |||||||
どのように | 話合い等を通じ、当該フリーランスが求める配慮の具体的な内容及び育児介護等の状況を把握する。 | 配慮申出窓口・担当者 調達担当 ●● | フリーランスの希望する配慮の内容、又は希望する配慮の内容を踏まえたその他の取り得る対応を検討する。ただし、配慮義務であって、希望する配慮の内容全てを実現する義務ではないことに留意する。 | 確定した具体的な配慮の内容を速やかに伝える。 | 確定した具体的な配慮の内容を速やかに実施する。 | 十分に検討した結果、配慮を行うことができない旨を伝達し、その理由について、必要に応じ、書面の交付や電子メールの送付により行うことも含め、わかりやすく説明する。 | 申出を阻害させるような言動は行わない。 |
把握した情報は、取引関係者で申出を受けた者、人事担当、調達担当のみで共有し、プライバシー保護に留意する。 | 速やかに配慮申出窓口・担当者と共有する。 | 申出をしたこと又は配慮を受けたことのみを理由に契約の解除その他の不利益な取扱いをしない。 |
次回10月の記事では、就業環境の整備のうち「業務委託に関して行われる言動に起因する問題(業務委託におけるハラスメント)に関して講ずべき措置等」について見てまいります。
- フリーランス新法上、フリーランスとは「個人であって、従業員を使用しないもの」「法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの」と定義されています。なお、「従業員を使用」とは、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(労働基準法(昭和22年法律第49号)第9条に規定する労働者をいう。)(派遣労働者を含む。)を雇用することをいいます。事業に同居親族のみを使用している場合には、「従業員を使用」に該当しません。 ↩︎
- フリーランス新法上、「業務委託事業者」「特定業務委託事業者」がそれぞれ定義されていますが本稿では便宜上「委託事業者」とします。
引用:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」p3 ↩︎ - 厳密には全く同様ではありませんが、類型化の便宜上の表現です。 ↩︎