マニュアル業界用語解説「アウトライン」とは?

コンピューター業界の片隅にひっそり生息する、IT 企業とも印刷会社ともサービス会社とも言い切れないどこか独自の存在感を放つマニュアル制作会社では、世間一般と同じ日本語でありながら、その使われかたや意味が独特のコトバが使われます。
ときにはコトバの意味や使われかたが特殊すぎて、業界外の方々との会話で話がかみ合わなくなることもあったりします。

そんな誰もが見聞きしているけどマニュアル業界ではユニークな意味を持つコトバの解説をしていきたいと思います。読めばアナタも立派なマニュアル業界の中の人! ……それが周囲に自慢できることかどうかはコメントを差し控えたいと思います。

記念すべき?用語解説第1回目は「アウトライン」。当業界は、過去のマニュアルのDTPデータを流用して新しいマニュアルを制作することがとても多いのですが、データの流用性を確保していないとイロイロ困るという話につながる奥が深い話……です(たぶん)。

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「アウトライン」って?

お題である「アウトライン」ですが、辞書みたいに解説すると下記になるでしょうか。

  1. 何らかの文章の内容を、見出しのみの抽出または本文の要約のどちらかまたは両方を用いて階層的に表したもの。
  2. 語源である英語の「Outline」は「形状の輪郭」を意味する。転じて、ものごとの主要な部分 (骨子)、概要・概略、大筋、素案。
  3. イラスト作成アプリケーションなどで、指定したフォントを適用したテキストデータをイラストデータ化すること・またはそのイラストデータそのもの。

意外にも、マニュアル業界では上記の 1 から 2 の意味でアウトラインという言葉を用いることはまれなのですよね (弊社だけかもしれませんが)。たとえばライターが原稿を書くときも、アウトラインという言葉を用いることはあまりありません。
文書の構造や骨子のことは「構成案」と言って済ませることが多いですし、そもそも成果としての文書ができあがる前段階でのアウトライン作成はライターのみが負担するものなので、ライター以外の人たちと仕事の話をするときはあまり口にしないのかもしれません。

他方、マニュアル業界で「アウトライン」という言葉を発するときは、Adobe Illustrator で作成したイラストデータの中に含まれるテキストデータを画像化したものを指すことが多いのが実情です。上記の 3 の意味ですね。

マニュアル業界では「アウトライン化されたフォント」

Adobe Illustratorでは、文字 (テキスト) を「文字データとフォント」を組み合わせて表現しますが、そもそもデザインのためのツールということもあって、かなり特殊なフォントを用いることが多くなります。
作成したデータを別の誰かに渡したときに、相手がAdobe Illustratorを持っていても、作成時に使用したフォントがなかったらデザイナーの意図どおりにその文字が表示されません。
このような場合に、その文字の部分をアウトライン化しておくと、渡した相手がフォントを持っていなくても、意図どおりに文字を表示・再現できます。

アウトライン化すべきかしないでおくべきかそれが問題

イラストレーターの作業環境にはそれこそ多種多様なフォントがインストールされています。きっとマニアックなフォントもたくさんあるに違いありません。そのイラストを DTP データに載せる作業をする DTP 担当者の環境で同じようにフォントが完備されているとは限りませんし、むしろそうではないことのほうが多いと思います。

特殊なフォントがない環境でも開けるような汎用的なデータにするという意味ではこの「フォントのアウトライン化」というのは必須の処理です。実際、印刷会社にデータを出稿するときは「アウトライン化しないテキストとフォント」のままのデータのほうこそご法度とされます。

ただし、アウトライン化したフォント (テキスト) は元には戻せないという特性があります。画像化したら最後、そのデータからテキストデータにリバースすることは不可能です。今なら AI を使って再現できるかもしれませんが、100% オリジナルに戻せる保証はありません。

もしも、クライアント様から支給されたイラストデータの中に含まれるテキストデータが「アウトライン化されたフォント」しかなかったら、その文字を拡大縮小するなどの加工は可能ですが、文字修正はできません。

こんなときは (1) オリジナルのフォントとテキストが含まれたデータを再支給してもらうか、(2) フォントの種類を教えてもらうか、(3) 元のフォントの種類がわからない場合は似ている別のフォントに置き換えてよいかどうか相談する、などの対応に迫られます。

実際、「アウトライン化されたデータしかないのに文字修正を依頼され、周辺の文字を切り貼りしてレタッチした」「漢字変換で出てこない珍しい漢字をアウトライン化された文字の部首やつくりを組み合わせて表示させた」という武勇伝もあるくらいです。

どちらもデータに含めてほしいというささやかな望み

Adobe Illustratror には、表面上は同じ位置に異なるデータを配置する「レイヤー」を持たせることができます。オリジナルのテキストデータを下のレイヤーに置き、そのレイヤーをコピーしてからアウトライン化すると、同じ位置に「元のテキスト」と「そのアウトライン化されたデータ」を配置できます。

この場合、下のオリジナルテキストのレイヤーを非表示にしておけば、仕上がりにはアウトライン化されたデータのみが表示されます。こうなっていると流用に向いたデータなので理想的です。

復旧するための対応策はいろいろありますが、元のデータの再現性を確保できているデータをいただくのが最善です。データを後継機種や別機種に流用することが多いマニュアル業界特有の事情かもしれません。

制作会社であれクライアント様であれ、イラストデータを他社様に渡して流用してもらう機会はとても多いですから、自分たちが支給されるデータが流用しやすいものであってほしいと願うのと同時に、渡した相手が困らないようなデータ作成を心がけたいと思います。

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この記事の執筆者

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Alan SmitheePassage

制作スタッフ

執筆者プロフィール

マニュアル制作会社パセイジのしがない末端社員。マニュアル業界の仕事内容については今も昔も親兄弟や身内からいっこうに理解されていない。中判フィルムによるピンホール写真撮影という勤務先に負けずとも劣らない特異な趣味を持つがあまり撮影できていない。ひょんなことから『4.(シテン)』記事執筆者にまつり上げられ、ない知恵絞りながら記事執筆している。

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