前回は身近にある「翻訳サービス」をとにかく使ってみることを念頭に、いろいろな使い方をご紹介しました。
「翻訳」へのハードルが下がってきたところで、今回は日本語から英語への実践的な翻訳に役立つTIPSをご紹介します。
まずはネーミングの蘊蓄(うんちく)
前回は「Google翻訳」や「Microsoft Translator」などを「翻訳サービス」または「翻訳機能」と呼びました。実は世間ではこれらは「自動翻訳」、「ウェブ翻訳サービス」、「翻訳ツール」、「機械翻訳」、「翻訳サイト」、「AI翻訳」、「AI翻訳サービス」、「翻訳AI」、「AI自動翻訳ツール」、「オンライン自動翻訳サービス」など様々な名称で呼ばれています。
豊富なバリエーションがある名称ですが、実はどれも同じものを指しています。
世間では「自動翻訳」と呼ばれることが多いようですが、翻訳業界では総称として「機械翻訳」(英語の”Machine Translation“の日本語訳)と呼ぶのが一般的です。
翻訳会社と打ち合わせをする機会などに、さりげなく使ってみると「このお客さんは素人じゃないな」という印象を与えられますよ。
というわけで、今回からはこの連載でも「機械翻訳」という名称を使うことにします。
なお、「機械翻訳」のことを、翻訳結果を提供するサービスまたは翻訳するためのシステムの意味で比喩的に「機械翻訳エンジン」と呼ぶことがあります。ウェブサイトの検索機能を「検索エンジン」と呼ぶのと同じです。
基本にして奥義! その名も「逆翻訳」
前回は主にGoogle翻訳を使いましたので、今回の説明にはDeepL(ディープエル)を使うことにします。
https://www.deepl.com/ja/translator
DeepLの左側の枠に日本語の文章を入れるとすぐに右側の枠に英語に翻訳された文章が表示されます。Google翻訳に似た画面なので誰でも直感的に使えますね。
これで翻訳が終わりならよいのですが、もしかしたら翻訳が間違っているかもしれません。
英語力に不安があって訳文が正しく翻訳されているか分からない人は、翻訳された英文を元の日本語文に戻してみるとよいでしょう。
原文と訳文の間にある矢印ボタンをクリックすると、翻訳する言語方向が「日本語 → 英語」から「英語 → 日本語」に変わります。これを「逆翻訳」と言います。
逆翻訳した日本語文と翻訳前の日本語文を比べてほとんど同じなら、正しく日英翻訳できたと判断できます。日本語と日本語を比べるだけなのでカンタンですね。
もし逆翻訳した日本語文が違っていたら、最初の文章があいまいで機械翻訳エンジンが正しく解釈できなかったのかもしれません。このようなときは、日本語文に主語や目的語を補ったりして書き換えてみましょう。
また、どうも英語文に納得できなかったりしっくりしないときは、英語を書き換えてから日本語に逆翻訳してみましょう。
「だ・か・ら! 英語を書き換えるとか無理!」という人もご安心を。
翻訳された英語文の中に不自然に思える言い回しがあるときは、気になる英単語をクリックしてみてください。「別の訳語一覧」リストとして書き換えの候補が表示されます。提案された候補を選ぶだけで訳文が自動的に書き換わりますよ。
このように、日本語 → 英語 → 日本語 → 英語 → 日本語… という具合に日本語と英語に手を加えながら行ったり来たりする「逆翻訳」で元の日本語文が機械翻訳に適したクリアな文になり誤訳を防ぐことができます。
日本語文を書き換えたり英語の訳語をリストから選ぶだけなら英語力に不安がある人でも日英翻訳のハードルがかなり下がるのではないでしょうか。
洗練を目指す上級技「AI推敲」
多少英語力がある人なら、わざわざ機械翻訳しないでいきなり英語で文章を書いてしまうかもしれません。日本語文を書いて、機械翻訳して、英語文を直して、逆翻訳してという作業が面倒ですからね。
そうは言っても、バイリンガルか帰国子女でない限り、自分の英語には不安があるものです。うっかり文法ミスをすることがあるし、動詞の活用形や前置詞の使い方があいまいだったりするからです。
そこで活用したいのがDeepLの英語ブラッシュアップ機能です。
DeepLの左側にある[DeepL Write]をクリックすると、「DeepL翻訳」の画面が「DeepL Write」に切り替わります。
「DeepL Write」は機械翻訳エンジンではなく、英文作成の手助けをしてくれるウェブサービスです。左側の枠に英文を入れると、右側の枠に修正後の英文が表示されます。
右側の英文内にカーソルを置いて[一文の書き換え]タブをクリックすると、書き換え文の候補がいくつか表示されます。
[単語の書き換え]タブをクリックするとカーソルがある位置の単語の書き換え候補が表示されるという具合です。
右端の三点ボタンをクリックするとどこがどう変わったか分かるように変更箇所を表示できます。変更した英文を元に戻したいときは左下にある矢印をクリックします。
[文体]をクリックすると英文の文体とトーンを変えることもできます。
どうでしょう、自分で英語の添削ができるなんて嬉しくなりませんか?
「こういう書き方もできるよ」「これはどう?」的なアイディア出しの手助けをしてくれるのでとても重宝します。使い方によっては英語の勉強に利用できそうですよね。(ここだけの話、筆者はDeepL Writeがないとまともな英文が書けません。)
「DeepL Write」は元の英文の原形を留めつつ書き換え候補を提示してくれるので、元の文が跡形もなくガラッと変わってしまうことはありません。逆に言うと、いかにも英語ネイティブが書き起こしたようなナチュラルな文や格調高い文を書きたい人には向かないかもしれません。
DeepLで日本語文を英語に機械翻訳して、その英文をそのまま「DeepL Write」にかけて書き換え候補文を見たいときは、画面下部の[訳文を推敲]ボタンをクリックします。
DeepLから「DeepL Write」に訳文が転送されるので、英文をコピーして、「DeepL Write」を開いて、英文をペーストする手間が省けてとても便利ですよ。
信じられないミスをつぶす「ダブルチェック」
訳文が正しく翻訳されているか確認する手法として、別の機械翻訳エンジンを使ってみることも有益です。1つの機械翻訳エンジン(例えばDeepLだけ)では誤訳や訳抜けに気付かないことがあるからです。
機械翻訳した訳文が自然でスラスラ読めると正しく翻訳されていると思い込みがちですし、「AIが翻訳したんだから間違ってるわけがない!」と信じてしまうかもしれません。
ところが、原文と訳文をよ~く読んでみると、逆の意味に翻訳されていたり、いくつかの文が翻訳されていないこともあります。
今回は日本語から英語への機械翻訳にDeepLを使用しましたが、翻訳文を確認する方法として前回ご紹介したGoogle翻訳(https://translate.google.co.jp/ )やMicrosoft Translator(https://www.bing.com/translator/ )を使ってそれぞれの訳文を比較してみることをお勧めします。
試しに次の日本語文を3つの機械翻訳エンジンで英語に翻訳し、訳文を比較してみましょう。
原文(日本語文) | 詳細につきましては、添付のPDFファイルをご確認ください。 |
DeepL | Please review the attached PDF file for more details. |
Google翻訳 | Please refer to the attached PDF file for details. |
Microsoft Translator | For details, please check the attached PDF file. |
どの機械翻訳エンジンでも似たり寄ったりの英訳文になると思いきや、意外にも差異があると思いませんか。
翻訳サービス 結局どれがいい?
もしあなたが英語の資料を読むのが大変だから日本語に翻訳して大まかな内容を把握したいのでしたら、お気に入りのあるいは使い慣れた機械翻訳エンジンを使って日本語文を流し読みすれば十分です。
しかし、この文の日本語がどうも分かりづらい、この段落の意味をもっと正確に理解したい、原文に対して訳文が短すぎるなどと思ったら、前述のように複数の機械翻訳エンジンを使って訳文を比べるとよいでしょう。
では、機械翻訳エンジンごとに得意分野や翻訳のクセなどがあるのでしょうか。ドキュメントの種類やメールの宛先に応じて機械翻訳エンジンを変えた方がいいのでしょうか。
味も素っ気もない結論を一言で言ってしまうと…
どれを使っても大差ない! です。(あくまで個人の感想です。)
筆者の印象としては、次のような使い分けをしてもいいかなと思っています。
- 文章がナチュラルでスラスラ読める訳文がいいなら、DeepL
- どんな分野のどんなトーンの文章でもそつなく翻訳するなら、Google翻訳
- IT系ドキュメントまたはMicrosoft Word内で翻訳するなら、Microsoft Translator
機械翻訳エンジンの開発と改良は日進月歩で進んでいます。
極端な話、同じ原文を同じ機械翻訳エンジンにかけても、昨日と今日で訳文が違うことがあります。以前の誤訳パターンが今ではすっかり解消していることもザラにあります。
どの機械翻訳エンジンを使っても、訳文が正確で完璧ということはありません。訳文を鵜呑みにせず、あくまで参考程度に利用することをお勧めします。
まとめ
いかがでしたでしょうか。DeepLとDeepL Writeがあれば英語アレルギーの人でもキチンとした日英翻訳ができそうな気がしてきたのではないでしょうか。
もしかしたらあなたも早く使ってみたいと思い始めていませんか。
近年は各種機械翻訳エンジンの普及とインバウンド需要の急激な伸びにより、機械翻訳エンジンを使えばどんな言語でもちゃちゃっと翻訳できるイメージが先行しつつあります。
しかし、翻訳が簡単に、速く、しかも無料でできるためか、何でも機械翻訳で済ませ、訳文を確認することなく機械翻訳しっぱなしのお粗末な事例も散見されます。
次回は機械翻訳と人間翻訳を組み合わせたハイブリッド翻訳、機械翻訳のセキュリティ対策についてお伝えします。お楽しみに!