2024年11月1日の施行日が迫る通称「フリーランス新法」。
皆様の対応は順調に進んでいますでしょうか?9月の「フリーランス新法への対応はお済みですか?~育児介護等に対する配慮編」の記事に続いて、本稿では「業務委託に関して行われる言動に起因する問題(業務委託におけるハラスメント)に関して講ずべき措置等」を見てまいります。
本稿で参考・引用している資料は、公正取引委員会>(令和6年5月31日)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の施行に伴い整備する関係政令等について のページの「関連ファイル」になりますので、あわせてご参照ください。
以下1と2は、9月の「フリーランス新法への対応はお済みですか?~育児介護等に対する配慮編 」記事と同じですので、必要に応じて3よりお読みください。
1 フリーランス新法の立法目的
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号。以下「フリーランス新法」)が2024年11月1日に施行されます。フリーランス新法は、働き方の多様化の進展に鑑み、特定受託事業者(以下「フリーランス」1)が受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、フリーランスに業務委託する事業者(以下「委託事業者」2)について、一定の措置を講ずることにより、フリーランスに係る取引の適正化及び就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを立法目的としています。
2 委託事業者に講ぜられる一定の措置
委託事業者は、講ぜられる一定の措置について対応する必要があります。ここでいう一定の措置とは、大別すると、次の2類型になります。
(1) 下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」)と同様の規制3
(2) 就業環境の整備(労働者類似の保護)
下請法においては、(2)については規律されていない関係上、すでに(1)の対応は済んでおり、(2)についてこれから対応されるという場面を想定しています。
加えて(2)の対応項目は、
① 募集情報の的確な表示(フリーランス新法第12条)
② 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮(フリーランス新法第13条)
③ 業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等
(フリーランス新法第14条)
④ 解除等の予告(フリーランス新法第16条)
の4つからなりますが、実務上対応負担が大きいと思われる②と③についてクローズアップし、本稿では③について取り上げます。
なお、フリーランス新法には、下請法に規律される事業者の資本金要件に相当するものはありませんので、フリーランスへの発注者として全ての事業者に適用があることを申し添えます。
3 業務委託に関して行われる言動に起因する問題(業務委託におけるハラスメント)に関して講ずべき措置等の概要
委託事業者は、その行う業務委託に係るフリーランスに対し当該業務委託に関して行われるフリーランス新法第14条第1項各号に規定する言動により、当該各号に掲げる状況に至ること(以下「業務委託におけるハラスメント」)のないよう、その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならないものです。この措置は義務です。
業務委託におけるハラスメントとは、次に掲げるものをいいます。
(1) 業務委託におけるセクシュアルハラスメント
性的な言動に対するフリーランスの対応によりその者に係る業務委託の条件について
不利益を与え、又は性的な言動によりフリーランスの就業環境を害すること。
(2) 業務委託における妊娠、出産等に関するハラスメント
フリーランスの妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるもの
(以下①~④)に関する言動によりその者の就業環境を害すること。
① 妊娠したこと。
② 出産したこと。
③ 妊娠又は出産に起因する症状により業務委託に係る業務を行えないこと
若しくは行えなかったこと又は当該業務の能率が低下したこと。
④ 妊娠又は出産に関して配慮の申出をし、又は配慮を受けたこと。
(3) 業務委託におけるパワーハラスメント 取引上の優越的な関係を背景とした言動であって
業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものによりフリーラン
スの就業環境を害すること。
引用:
「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」p21~23
4 体制の整備その他の必要な措置の具体的事項
(1) 業務委託におけるハラスメントに対する方針等の明確化及び周知・啓発
委託事業者は、業務委託におけるハラスメントに対する方針の明確化、労働者に対するその方針の周知・啓発として、次に掲げる措置を講じなければなりません。
① 業務委託におけるハラスメント防止の方針の明確化及び周知・啓発
- 方針の明確化手法→就業規則その他服務規律等を定めた社内規程、社内通達等の文書において、業務委託におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針を規定する。
- 周知・啓発手法①→社内報、社内ホームページ等に業務委託におけるハラスメントの内容及び業務委託におけるハラスメントを行ってはならない方針を掲載
- 周知・啓発手法②→業務委託におけるハラスメントの内容及び業務委託におけるハラスメントを行ってはならない方針についての社内研修・講習等を実施する。
② 業務委託におけるハラスメントに係る言動を行った者への対処方針の明確化及び周知・啓発
- 対処方針の明確化手法→業務委託におけるハラスメントに係る言動を行った者は、現行の就業規則その他服務規律等を定めた社内規程、社内通達等の文書において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化する(改定を含む。)。
- 周知・啓発手法→社内報、社内ホームページ等に懲戒規定の適用の対象となる旨を掲載する。
(2) フリーランスからの相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
委託事業者は、フリーランスからの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制な整備として、次に掲げる措置を講じなければなりません。
① 相談への対応のための窓口(以下「相談窓口」をあらかじめ定め、フリーランスへ周知
- 相談窓口の整備①→現行のハラスメント対応体制を活用する。すなわち現行のハラスメント相談窓口を業務委託におけるハラスメントについても活用する。この場合において、社内規程を整備している場合は、必要に応じ改定する。
- 相談窓口の整備②→対面以外の方法(アプリ・メール等)により相談を受け付ける場合には、受付記録が確認できる仕組みや設定を行う。
- フリーランスへの周知手法→契約書や発注書に相談窓口連絡先を盛り込む。書式であれば書式を改定して盛り込む。
② 相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切な対応を行える仕組みの整備
- 相談窓口の担当者と人事、法務、調達などが連携できるような調整をしておく。
- 必要に応じマニュアルを作成し、対応フローを整備しておく。
- 相談窓口担当者が、社内有識者からアドバイスを受ける、社外研修を利用する。
(3) 業務委託におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
委託事業者は、業務委託におけるハラスメントに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、次に掲げる措置を講じなければなりません。
① 事案に係る事実関係の迅速かつ正確な把握
- 相談窓口の担当者、人事等が、相談を行ったフリーランス(以下「相談者」)及び業務委託におけるハラスメントに係る言動の行為者とされる者(以下「行為者」)の双方から事実関係を確認する。
- 相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致がある場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講じる。
- 事実関係の確認の状況について、共有することが適切な場合には、伝達可能な範囲で相談者に共有する。
② 業務委託におけるハラスメントが生じた事実確認後の速やかな被害者に対する適正な配慮措置
- 事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、行為者の謝罪、被害者の取引条件上の不利益の回復等の措置を講じる。
③ 業務委託におけるハラスメントが生じた事実確認後の行為者に対する適正な措置
- 就業規則その他服務規律等を定めた社内規程、社内通達、文書における業務委託におけるハラスメントに関する規定に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講じる。
- 事案の内容な状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、行為者の謝罪等の措置を講じる。
④ 再発防止に向けた措置
- 業務委託におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針及び業務委託におけるハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する方針を、社内報、社内ホームページ等に改めて掲載する。
- 業務委託における妊娠、出産等に関するハラスメントについて、フリーランス新法第13条の妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮の申出ができる旨を社内報、社内ホームページ等に改めて掲載する。
- 委託事業者の雇用する労働者に対して業務委託におけるハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等改めて実施する。
(4) (1)から(3)までの措置を併せて講ずべき措置
(1)から(3)までの措置を講ずるに際しては、併せて次に掲げる措置を講じなければなりません。
① 業務委託におけるハラスメントに関する相談内容に係るプライバシー保護
業務委託におけるハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものですので、相談への対応又は当該ハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者及びフリーランスに対して周知しなければなりません。
- 相談窓口において相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを、業務委託契約書・発注書等の書面やメール等において記載する、フリーランスへ一斉通知、社内報・社内ホームページ等に掲載する。
- 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応する。
- 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行う。
② 業務委託におけるハラスメントに関する相談をしたこと等による不利益取扱いがされない旨の定め及び当該定めのフリーランスへの周知・啓発
フリーランスが、
- 業務委託におけるハラスメントに関する相談をしたこと。
- 事実関係の確認等の委託事業者の講ずべき措置に協力したこと。
- 厚生労働大臣(都道府県労働局)に対して申出をし、適当な措置をとるべきことを求めたこと。
を理由(以下あわせて「業務委託におけるハラスメントの相談等」)として、業務委託に係る契約の解除その他の不利益な取扱いをされない旨を定め、フリーランスに周知・啓発しなければなりません。
- 業務委託契約書・発注書等の書面やメール等において、業務委託におけるハラスメントの相談等を理由として、フリーランスが契約の解除等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、もってフリーランスに周知・啓発する。
引用:
「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」p41~53
5 まとめ
繰り返しますが、フリーランス新法には、下請法に規律される事業者の資本金要件に相当するものはありませんので、フリーランスへの発注者として全ての事業者に適用があります。1,000万円以下の事業者でありましてもフリーランスへ発注する場合には、フリーランス新法の適用があることに十分に留意いただき対応を進めることになります。
以下の表はイメージしやすいように便宜整理したものです。例示的な内容も含めていますので各社の実態に合わせて適宜読み替えていただければと思います。
項目 | 誰が | 何を | どのように |
---|---|---|---|
業務委託におけるハラスメントに関して講ずべき措置等 | ①総務、人事、法務、調達 | 業務委託におけるハラスメント防止方針の明確化 | 就業規則その他服務規律等を定めた社内規程、社内通達等の文書に規定 |
②総務 | 防止方針の社内周知 | 社内報、社内ホームページ等に掲載 | |
③総務、人事、法務、調達 | 業務委託におけるハラスメントに係る言動を行った者への対処方針の明確化 | 就業規則その他服務規律等を定めた社内規程、社内通達等の文書に規定 | |
④総務 | 対処方針の社内周知 | 社内報、社内ホームページ等に掲載 | |
⑤相談窓口担当者、人事 | 相談窓口の整備 | 現行ハラスメント体制の活用 | |
⑥相談窓口担当者、人事、法務、調達 | 相談窓口担当者の対応体制 | 人事・法務・調達などと連携できるように事前調整 | |
⑦相談窓口担当者、人事、調達 | 相談事案の事実関係の迅速かつ正確な把握 | 相談者、行為者の双方から事実関係を確認 | |
⑧相談窓口担当者、総務、人事、法務、調達 | 事実確認後の速やかな被害者に対する適正な配慮措置 | 被害者と行為者の関係改善援助、行為者の謝罪対応等 | |
⑨相談窓口担当者、総務、人事、法務、調達 | 事実確認後の行為者に対する適正な措置 | ・行為者に対して懲戒その他の措置の実施 ・被害者と行為者の関係改善援助、行為者の謝罪対応等 | |
⑩総務 | 再発防止措置 | 防止方針・対処方針を社内報、社内ホームページ等に改めて掲載 | |
⑪総務、人事、法務、調達、情報管理部門 | プライバシー保護措置、当該措置の労働者及びフリーランスへの周知 | プライバシー保護措置を業務委託契約書・発注書等の書面やメール等に記載、フリーランスへ一斉通知、社内報・社内ホームページ等に掲載 | |
⑫法務、調達 | 相談をしたこと等による不利益取扱いがされない旨の定め及び周知・啓発 | 当該定めを業務委託契約書・発注書等の書面やメール等に記載、もって周知・啓発 |
施行日までに対応を終えられるようラストスパートです。万全の体制で迎えられるよう皆様頑張りましょう。
- フリーランス新法上、フリーランスとは「個人であって、従業員を使用しないもの」「法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの」と定義されています。なお、「従業員を使用」とは、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(労働基準法(昭和22年法律第49号)第9条に規定する労働者をいう。)(派遣労働者を含む。)を雇用することをいいます。事業に同居親族のみを使用している場合には、「従業員を使用」に該当しません。 ↩︎
- フリーランス新法上、「業務委託事業者」「特定業務委託事業者」がそれぞれ定義されていますが本稿では便宜上「委託事業者」とします。
引用:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」p3 ↩︎ - 厳密には全く同様ではありませんが、類型化の便宜上の表現です。 ↩︎