デザインの打ち合わせでは、
もう少しシンプルに
なんか違う
もっとやさしい感じで
そんな言葉がよく飛び交います。
どれも正直な感想ですが、その“なんか”をそのままにしておくと、デザイナーとクライアントの間に小さなズレが生まれます。
デザインは感覚の仕事のようでいて、実は言葉の仕事でもあります。
お互いの「いいね 」と「ちょっと違う 」を言語化できたとき、プロジェクトはぐっと進みやすくなります。
「センスがいい」で終わらせない。言葉で伝わる“意図のセンス”
「センスがいいですね」と言われるのは嬉しいことですが、本当に大切なのはセンスそのものではなく、“なぜそう感じるのか”を共有することです。
たとえば、「この色は落ち着いて見えるから」ではなく、「この色で“信頼できそう”という印象を与えたい」と伝える
意図を言葉にすることで、クライアントもデザインの背景を理解しやすくなります。
「なんか違う」も、「もう少し明るく見せたい」などに言い換えられれば、そこから建設的な会話が生まれます。
言葉があるだけで、“センス”は共有できるものに変わります。
デザインは“見た目合わせ”じゃなく“伝わり相談”
打ち合わせではつい、見た目の話ばかりになりがちです。
「もう少し派手に」
「高級感を」
「やさしい感じで」──。
もちろんそれも大事ですが、本当に話したいのは「誰に、どう伝えたいのか」ということ。
たとえば「若い層に親しみを持ってもらいたい」なら、派手さよりも軽やかさを優先したほうが伝わるかもしれません。
デザインの話を“見た目の修正”から“伝え方の相談”に変えると、目的がぶれず、結果も早く出やすくなります。
修正は「やり直し」じゃなく「共同実験」
修正が重なると、「また戻ったな」と感じることがあります。
でも実際には、そこに発見のタネが隠れています。
「この写真は違うかも」という言葉の裏には、「もう少し温かみを出したい」「誠実さを強めたい」という思いがあることも。
その気持ちを言葉で整理し、次の提案につなげる。
そうすれば、修正は“後退”ではなく“共同実験”になります。
デザインは、完成品を納める仕事ではなく、一緒に意味を探していくプロセスなのです。
「シンプルに」が危ない!? 言葉のすり合わせが信頼をつくる
良いクライアントワークの基本は、言葉の温度を合わせることです。
「シンプルに」と言われても、ある人は“すっきり”を、別の人は“上品”を思い浮かべます。
最初に「この場合の“シンプル”って、どんな感じですか?」といったコミュニケーションがあるだけで、すれ違いは驚くほど減ります。
そうした小さな確認の積み重ねが、「この人はちゃんと話を聞いてくれる」という安心感を生みます。
信頼とは、実はそうした言葉のキャッチボールの中に育つものです。
「デザインを言葉で説明するなんて、ちょっと野暮じゃない?」
そう感じる人もいるかもしれません。
でも、言葉があるから感覚が伝わり、クライアントとデザイナーが同じ方向を向くことができます。
「なんとなく、いいね」から「なぜいいのか」へ。
その会話が、デザインを“作業”から“対話”へと変えていきます。