何の気なしにスマホを眺めていたら、「ちいかわパーク1周年」という記事が目に入ってきました。もう1年も経ったのかと思うとともに、未だに混雑している状況であることに驚きます。
今年7月に公開された映画も、公開から66日間で興行収入は168.5億円、観客動員1,155万人、2026年公開映画の興行収入ランキング1位を記録しているのだそう。
やるな、ちいかわ。
気づけばあちこちの媒体で繰り広げられるコラボ企画。2、3年前までは、すみっこぐらしと見分けがつけられなかった筆者もさすがに無視できず、今ではXでの原作更新を今か今かと待ちわびています。
ちいかわパークにある、あのかわいい巨大造形物やグッズは、一体どうやって作られているのだろう? あのちいさくてかわいいやつらは、どうやってこんな巨大コンテンツになったのだろう? 企画デザインの仕事をしている身として、どうしても気になるところです。
というわけで今回は、ちいかわを「ものづくり」と「コンテンツづくり」という2つの視点から、ちょっとだけ真面目に紐解いてみたいと思います。
1. 立体造形の圧倒的な物質量に勝るものなし
「体験型」を売りにした、「ちいかわパーク」はどのように作られているのか。
まずは“聖地”となる、東京池袋にある「ちいかわパーク」から考えてみよう。
\ 公式サイトはこちら /
館内にちょこちょこと現れるかわいいキャラクターや、没入感満載の造形物たち。こういうのってどうやって作っているんでしょうか??
興味ありませんか?作り方さえわかれば、いずれこんなものも作れてしまうかもしれませんよ?? ジャジャーン‼

答えはおそらく、「FRP造形」です。工程はこんな感じ。

FRP=繊維強化プラスチック、簡単に言うと、プラスチック+ガラス繊維のような材料です。
軽くて丈夫で腐りにくく、屋外での展示も可能。テーマパークなどでよく見かける造形物に良く用いられる工法です。
きれいで再現性も高く、丈夫。それって…きっとお高いんじゃない?
ご想像の通り、キャラクターのようなかわいいお値段とはいかないようです。

もう少し、手の届く価格にならないかな…そう思いますよね。
現実的にクライアント様からご依頼いただける価格といえば、おそらく100万円を下回ってくるのではないかと思います。
そこで、100万円以内に収まる工法を調べてみました。

グッと現実的な価格になってきましたね!
でも……もっと安くできないの〜?? と言われるのが昨今の懐事情かと思います。
もっと安く……そうなると、もう立体を諦めるしかないですね T T
でもご安心ください!平面パネルの組み合わせでも、かわいい空間づくりは成立します!

このように、ご予算に合わせて様々な表現手法で「かわいい」は作れます!
2. ちいかわはキャラクターグッズも豊富!
思わず手に取りたくなるグッズを現実的な予算で作るには?
ちいかわは無限にグッズが展開されることでも知られています。今現在どのくらいのグッズが存在するのかご存知ですか?

なんと驚異の10,000種超え!
1日10種類ずつチェックしても、全部見るには約2年9か月かかる計算です。
造形物に次いで、こういったグッズはどのように作られていくのかを紐解いてみようと思います。まずはグッズの定番、ぬいぐるみから。
ぬいぐるみってどうやって依頼して作ってもらうのでしょうか?

まずは試作品を作り、そこから修正や調整が必要であることがわかります。
定番であり、キャラクターや世界観をそのまま反映するアイテムでもあるので、ある程度の制作期間を確保し、こだわって作成する必要があることもわかりますね。
ただ、私共がご依頼をいただける場合、「販売用商品」ではなく「ノベルティ」であることが多いですよね。その場合制作期間も、単価も、グッと下げる必要性が出てきます。
そんな短期間・低単価で、ちいかわのような可愛さを再現することなんて出来ないよ…..と思っていても「やって!!」と言われるのが私共のお仕事。涙
できるだけ再現できる手法を考えてみました。

上記のラインナップであれば、単価としても納期としてもノベルティとして扱える範囲内に収まります。さらに、化粧箱作成の予算と、セットアップの日程・工賃が確保できれば、下記のようなオリジナルセットのご提案も可能です。

3.「かわいい」だけでは説明できない、ちいかわ人気の秘密に迫る
そもそもなぜ「ちいかわ」は、これほどまでに多くの人を惹きつけるコンテンツになったのか、この大流行の核心に迫ってみたいと思います。
その理由を考えるうえで外せないのが、原作者である「ナガノ」さんの創作活動です。「ちいかわ」が誕生する以前から、「自分ツッコミくま」や「もぐらコロッケ」などの作品を発表し、すでに多くのファンを獲得していました。
特に「もぐらコロッケ」は、愛らしい見た目とは裏腹に、どこか不条理で残酷な独特の世界感が広がっています。この流れは「ちいかわ」にも受け継がれているように感じます。
一見すると、かわいいキャラクターたちのほのぼの日常ストーリー。しかし、読み進めると、そこには労働があり、資格試験があり、努力しても報われない現実があり、さらには命の危険さえ存在します。

かわいいのに、怖い。ほのぼのしているのに、切ない。
このギャップが、単なるかわいいキャラクターで終わらせない、大きな魅力のひとつではないでしょうか。
そして興味深いのが、ファンの入り口も一様ではないということです。
「自分ツッコミくま」や「もぐらコロッケ」の時代からナガノさんの作品を追いかけてきたファンにとっては、「ちいかわ」に垣間見える不穏な展開も、おなじみのナガノワールドだったのかもしれません。
一方、Xでの連載をきっかけに読み始めた人の中には、かわいさに惹かれていたはずが、いつしか物語の奥深さや、世界感に引き込まれていった人も多いのではないでしょうか。特に大人にとっては、少し理不尽な世界自体が自分自身の日常と重なるのかもしれません。
さらに、テレビアニメやグッズを通じてキャラクターを知った人、2026年の映画公開をきっかけに初めて本格的な物語に触れた人、そして純粋にキャラクターのかわいさを楽しむ子どもたち、それぞれが異なる魅力を見つけ、同じコンテンツを楽しんでいます。
つまり、「ちいかわ」は、すべての人に同じ魅力を届けているわけではありません。ひとつのコンテンツの中に、人それぞれが夢中になれる要素がいくつも存在しているのです。

「ちいかわ」が突然現れたただのかわいいキャラクターというわけではないことは確かです。ナガノさんが長年の創作活動で培ってきた独特の表現や物語性。少しずつ広がってきたファンの存在。そして、連載を重ねる中で深まっていった世界観。
そうした積み重ねがあったからこそ、SNSからテレビアニメへ、グッズへ、テーマパークへ、そして映画へと、活動の舞台を広げながら更に多くの人を惹きつけ続けているのではないでしょうか。
「ちいかわ」の大流行は、2020年に始まった物語だけで説明できるものではなく、それ以前から続いてきたナガノさんの創作活動の延長線上にある。
そう考えると、キャラクターを「育てる」ということの本質が、少し見えてくる気がします。
4.「かわいい」を守り、育てる。ちいかわに学ぶIP戦略
ここまでは、ちいかわ人気を支える独特の世界観について触れてきました。
しかし、どれほど魅力的なキャラクターでも、人気が高まるにつれて商品化や企業コラボ、アニメ化などが次々に進めば、その世界観を一貫して守り続けることは簡単ではありません。
そこで重要になるのが「IP戦略」という考え方です。
IPとは「Intellectual Property(知的財産)」の略。キャラクターや作品、その名称、デザイン、物語などの知的財産を活用し、価値を高めていくことを意味します。
キャラクターをさまざまな商品に展開し、認知度を広げることもIP戦略のひとつ。しかし、それ以上に大切なのは、キャラクターが持つ本来の魅力や世界観を損なわず、長く愛される存在へと育てていくことではないかと思います。

そして、ちいかわのIP展開において重要な役割を担っているのが、株式会社スパイラルキュート。同社は、キャラクターのライセンスプロデュースをはじめ、企画・開発、商品企画、セールスプロモーションなどを手がけています。
例えば、企業がちいかわの商品を作りたいと考えた場合、単にキャラクターのイラストを印刷すればよいわけではありません。
その商品はキャラクターのイメージに合っているのか。デザインや表現は適切なのか。作品の魅力を損なわず、ファンに喜んでもらえるものになっているのか。
こうした点を考えながら、作品とビジネスをつないでいくことも、ライセンスプロデュースの重要な役割です。
そして、ちいかわのIP戦略を考えるうえで、もうひとつ興味深い動きがあります。
2024年、スパイラルキュートは映像作品の企画・制作を手がけるSTORY inc.と共同で、QTORY(キュートリー)株式会社を設立しました。
QTORYは、キャラクターの魅力を映像作品として世界中に届けることを目指す会社です。
2026年公開の『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』では、このQTORYが製作幹事を担当しています。
製作幹事とは、映画製作に関わる企業や制作体制を取りまとめ、プロジェクトを推進する中心的な役割のこと。
これは単に外部の会社へ映画制作を依頼するのではなく、キャラクターの価値をよく理解する企業が、映像作品の企画・製作にも深く関わる体制を築いたという点で、非常に興味深い取り組みです。
もちろん、作品の世界観を生み出す中心にいるのは原作者のナガノさんです。
実際、映画化に際してナガノさんは、キャラクターのちょっとした仕草や表情、動き方に至るまで細かく確認したことをインタビューで語っています。
そうした細部へのこだわりの積み重ねが、キャラクターに一貫した人格を与え、ファンが安心して作品の世界に入り込める理由にもなっているのでしょう。
そして、その世界観を大切にしながら、商品、イベント、映像といった新しい表現の場を広げていく。
クリエイターが生み出した魅力を守ることと、ビジネスとして成長させること。この両立こそ、IP戦略の重要な役割なのだと思います。
ひとつのキャラクターを描き上げることと、そのキャラクターを長く愛される存在に育てることは、決して同じではありません。
かわいいキャラクターを作ることがゴールなのではなく、その先にどんな物語を紡ぎ、どのように人々との接点を増やしていくのか。
キャラクターを育てることもまた、長い時間をかけた「ものづくり」なのだと感じます。
5. 取扱説明書の外にもある、「伝える」お仕事
さて、ここまでキャラクターの人気の秘密や、グッズ展開、IP戦略についてあれこれと考えてきました。しかし、疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。
「これって取扱説明書を作っている私たちの仕事と、何の関係があるの?」
確かに、キャラクターのライセンス管理や映画制作と、取扱説明書の制作は、一見するとまったく異なる仕事です。けれども、私はその根っこには、共通するものがあると思っています。
それは、「伝えたいことを、相手にきちんと届ける」ということ。
少し視点を変えてみます。
今回取り上げたキャラクターは、なぜこれほど多くの人に知られ、親しまれるようになったのでしょうか。
かわいいデザインは、興味を持ってもらうきっかけになりました。物語や世界観は、もっと知りたいと思わせる力になりました。そして、アニメやグッズ、映画などのさまざまな展開が、人々との接点を増やしていきました。
つまり、「興味を持つ」「もっと知りたくなる」「好きになる」という段階を経て、人とコンテンツの関係が深まっていったのです。

これは、私たちの仕事にも応用できる考え方ではないでしょうか。
例えば、製品の使い方を説明する動画に親しみやすいキャラクターが登場したら?
難しい機能を説明する前に、実際の使用シーンを短いストーリーで紹介したら?
パッケージやWebサイト、クイックスタートガイド、取扱説明書でデザインや表現を統一し、ユーザーが迷わず情報にたどり着けるようにしたら?
もちろん、すべての取扱説明書にキャラクターや物語が必要なわけではありません。安全性や正確さが何よりも重要な場面では、余計な演出を加えないことも大切です。
しかし、相手の興味や理解の度合いを考え、最適な表現や伝達手段を選ぶことは、まさに私たちが日々取り組んでいる仕事そのものです。
そして、ここで先ほどの「IP戦略」という話にもつながります。
キャラクターのIP戦略では、作品が持つ魅力や世界観を守りながら、さまざまな媒体へ展開していくことが重要でした。
企業や製品の情報発信にも、同じような視点が必要です。
Webサイトではこう説明しているのに、取扱説明書では違う言葉を使っている。パッケージとサポート動画で操作の呼び方が異なる。そうした小さな不一致が、ユーザーの戸惑いや誤解につながることがあります。
逆に、情報や表現に一貫性があれば、ユーザーは安心して製品と向き合うことができます。
これはキャラクターの世界観を守ることと、決して無関係ではありません。
どの接点でも「その製品らしさ」を損なわず、必要な情報が自然に伝わるように設計する。
その積み重ねが、製品や企業への理解と信頼を育てていくのだと思います。
取扱説明書は、製品を理解してもらうための大切な手段です。
けれども、人の理解を生み出す方法は、取扱説明書の外にも広がっています。
キャラクターも、動画も、Webコンテンツも、パッケージも、そしてノベルティも。
それぞれが異なる役割を持ちながら、人と製品、人と企業をつなぐきっかけになるのです。
今回、ちいかわという大きなコンテンツを通して見えてきたのは、単なるキャラクタービジネスの成功法則ではありません。
「伝わる」をつくるためには、情報を整えるだけでなく、人の興味や感情、そしてその先にある体験まで考えることが大切なのだということ。
そう考えると、私たちの仕事には、まだまだ新しい可能性が広がっているように思います。
最初は「ちいかわパークって、もう1周年なんだ」という、ほんの小さな興味から始まった今回の調査。気がつけば、巨大造形物の製造方法から、グッズの製作費、ライセンス管理、IP戦略にまで話が広がってしまいました。
でも、その先に見えてきたのは、意外にも私たちが毎日向き合っている「伝える」という仕事でした。人は、興味を持ったものをもっと知りたくなる。そして、理解することで、もっと好きになることもある。
「わかる」をつくること。そして、「わかりたい」をつくること。
どちらも、これからの私たちに必要な仕事なのだと感じます。
※挿入イラストは、Geminiによる生成画像です。

