修理する権利(Right to Repair)とは?

修理する権利(Right to Repair)とは?

「壊れたら捨てる」から「直して使う」へ。

いま世界でそんな大きな流れが進んでいることをご存じでしょうか。

キーワードは修理する権利(Right to Repair)”。

一見すると専門的なテーマに思えるかもしれませんが、実はわたしたちの日常生活にも深く関わる話題です。

本記事では、近年注目を集めるこの考え方を、できるだけ肩の力を抜いて――読み物として楽しめるようにお届けします。

目次

1.「修理する権利」とはなにか

買った製品が壊れたとき、

  • メーカーに送るしかない
  • 修理費が高くて買い替えたほうが早い
  • 分解すると保証が切れる

こうした経験は、きっと多くの方にあるのではないでしょうか。

「修理する権利」は、こうした状況を変えようという世界的な動きです。メーカーに頼らなくても、ユーザー自身や街の修理店が、適切な情報・工具・部品を使って修理できるようにすることを目指しています。

つまり、“直し方が分からないから捨てる” を減らす仕組みです。

2.なぜ今、世界が修理に目を向けているのか

理由その1:環境への危機感

車、家電、電子機器など、ものが壊れるたびに買い替えていれば、当然ながら廃棄物(ゴミ)は増加します。なかでも電子廃棄物の増加は、世界的に深刻な課題となっており、修理できる文化はその対策のひとつとされます。

理由その2:“選択肢のなさ”に対する消費者の不満

修理情報が公開されていないために、メーカー以外では修理できない。そんな“縛り”が消費者の不満を生んでいました。

「せっかく買ったものなのに、どうして自由に触れないの?」 ――この素朴な疑問が、世界各地で共感を呼んでいます。

理由その3:長く使いたいという気持ち

製品寿命を意図的に短く設計する等、買い替えありきの製品づくりに疑問が向けられていることも背景にあります。“壊れたら終わり”ではなく、“直しながら長く使う” という価値観が復権しつつあります。

3.対象製品はジワジワと、だけど確実に拡大しています

当初、自動車業界から拡大していった「修理する権利」ですが、その影響は、スマートフォンのようなデジタル機器、家電、オーディオ機器、さらには農業機械までと、対象は広がり続けています。

  • デジタル機器:スマホ、PC、タブレット…いま最も議論が盛んな領域。
  • 大型家電:洗濯機や冷蔵庫など、EUのエコデザイン指令で修理の可能性が重視されています。
  • その他家電:掃除機、オーディオ機器、高圧洗浄機など、対象拡大中。
  • 特殊機器:アメリカでは農業機械メーカーと農家の間での議論が白熱しています。

4.各国の動き ― 先を行く欧米、慎重な日本

EU:修理しやすい製品づくりを義務化へ

製品の修理を促進するための指令が採択され、メーカーに一定期間のスペアパーツ提供や修理の義務付けなどが進められています。

アメリカ:州ごとに法整備が進む

ニューヨーク州を筆頭に、電子機器の修理情報公開を求める法律が成立。他の多くの州でも同様の法案が審議されています。

日本:慎重な姿勢。その背景には…

日本は欧米ほど法整備が進んでいません。背景には、
 – 通信機器の修理には電波法の制約がある
 – 精密部品化が進み、個人修理の難易度が高いといった事情があります。

とはいえ、一部メーカーではセルフ修理プログラムの提供がはじまり、確実に変化が生まれています。

5.修理できるって、本当に良いことばかり?

もちろん、メリットがあれば注意が必要なリスクもあります。

では、どのような注意点があるのでしょうか。主なリスクをまとめました。

リスク要因内容
品質・安全性分解に慣れていないと、製品をさらに損傷させたり、不適切な部品の使用により火災や感電などの事故につながることも。
保証の無効化現在の多くのメーカー保証は、「メーカー指定外の修理や分解を行った場合」に無効になります。修理権利の法制化後も、修理の範囲によっては保証が受けられなくなる可能性があります。
偽造部品の流通市場に修理部品が広く流通することで、品質の劣る偽造部品が出回る可能性が高まり、結果的に製品の故障や性能低下につながる恐れがあります。
電波法違反日本特有の課題として、スマートフォンなどの通信機器は、修理内容により電波法違反のリスクが残ります。

“権利”として広がる一方で、正しく扱う知識と判断が必要ということです。

6.広がる「直して使う」文化

最近では「中古品」「リユース」「リファービッシュ」など、修理を前提にした市場が急速に成長しています。

リファービッシュとは?
中古品を単に清掃するだけでなく、メーカーや専門業者が故障部品の交換、動作確認、データ消去を行い、“ほぼ新品” の状態に整備し直して再販する製品のこと。

修理する権利の普及は、こうした新しい価値観やビジネスモデルを後押ししています。

7.おわりに ― “直せる世界”はちょっと優しい

ものを長く大切に使う。
昔は当たり前だったことが、もう一度注目されている――そんな時代の変化を感じます。

「修理する権利」は、単なる法律の話ではなく、私たちが暮らす社会のあり方を問い直す動きとも言えます。

この記事が、みなさんの“ものとの付き合い方”を少し見つめ直すきっかけになれば幸いです。

8.クレステックからのお知らせ

製品を「直して使う」文化が広がる中で、クレステックでは消費者向けの修理マニュアル制作も承っています。
専門知識がなくても理解しやすい図解構成や、安全面に配慮した手順設計など、ユーザーの “自分で直したい気持ち”を後押しするコンテンツ制作を得意としています。どうぞお気軽にご相談ください。

お気に入りの記事をシェアしよう!

この記事の執筆者

Katsunori Yokomoriのアバター

Katsunori YokomoriCRESTEC

営業スタッフ

執筆者プロフィール

マニュアルの制作、翻訳、印刷の全般を担当。何かございましたら、お気軽にお申し付けくださいませ。

目次