正しくても伝わらない文章とは?-アレクサンドラ構文から考える-

アレクサンドラ構文というものをご存じだろうか。

Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
問:この文脈において、『Alexandraの愛称は( )である』の空欄に当てはまる最も適当なものを、
(1)Alex、(2)Alexander、(3)男性、(4)女性
の中から選べ

それほど難しい問いとは思えないが、正答(Alex)にたどり着いたのは、中学生で38%、進学校に通う高校生でも65%だったという。

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正しくても読みづらい理由

この正答率の低さには驚かされるが、同時に思う。文法的には正しいこの文章が、なぜ読み手を迷わせるのか。どこに読みにくさの原因があるのか。

私は、読みにくい文章や分かりにくい表現に出会うと、「どう書き直せば、よりスムーズに読み手に伝わるだろうか」とつい考えてしまう。取扱説明書の制作という仕事柄、これはもはや職業病のようなものだ。

“取説風”にアレクサンドラ構文を書き直す

アレクサンドラ構文は読み手の読解力を試すことが目的なのだから、「余計なお世話だ」と言われるかもしれない。だがあえて、“取説風”に、わかりやすく簡潔な文章に書き直してみようと思う。

私はいつも、以下のような手順で文章を練り直している。

手順1:伝えたいことを整理する

アレクサンドラ構文が読みにくい最大の要因は、以下の二つにある。

  • 重文(=主語と述語のセットを複数含む構造)であること
  • 主語(Alex)の省略があること

そこで、以下のように主語を補い、伝えたい要素を明確化する。

  1. Alexは男性にも女性にも使われる名前である。
  2. Alexは女性の名Alexandraの愛称である。
  3. Alexは男性の名Alexanderの愛称でもある。

手順2:文の構成を工夫する

短く、理解しやすくするために、並列関係にある文は統合する。

Alexは男性にも女性にも使われる名前である。
Alexは女性の名Alexandraや、男性のAlexanderの愛称でもある。

手順3:接続詞でつなぐ

同じ主語を繰り返さず、接続詞で文と文を自然につなげる。

Alexは男性にも女性にも使われる名前である。
また、女性の名Alexandraや、男性のAlexanderの愛称でもある。

手順4:曖昧な表現を補う

「女性の名=Alexandra」「男性の名=Alexander」であることを明確に示す。

Alexは男性にも女性にも使われる名前である。
また、女性の名である「Alexandra」や、男性の名である「Alexander」の愛称でもある。

手順5:表現を統一する

  1. 用語の統一
    「名」→「名前」
    「使われる」などの述語も統一
  2. 語順の統一
    「男性→女性」の順で並べると自然な流れになる。

完成形の文:
Alexという名前は、男性にも女性にも使われる。また、男性の名前である「Alexander」や、女性の名前である「Alexandra」の愛称としても使われる。

文章の明確さと日本語の特性

少しは読みやすく、伝わりやすくなっただろうか?

日本語は「ハイコンテクスト(高文脈)」な言語であり、もともと明示的な記述にはあまり向いていない。私たちは日常的に、文脈や背景知識、さらには「空気」を読むことで情報を補っている。

だからこそ、「誰にでも明確に伝わる文章」を書こうとすると、何かが抜けたり、逆に余分な表現が入り込みがちなのかもしれない。

アレクサンドラ構文は社会の縮図?

そういう意味で、アレクサンドラ構文のような文章は、実は日本語社会に広く存在しているのではないか。

アレクサンドラ構文を読み取れない若者が増えている。
それが必ずしも「空気を読む力」の低下を意味しているわけではない——そう願いたい。

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この記事の執筆者

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Dog PersonCRESTEC

制作スタッフ

執筆者プロフィール

クレステック歴10年。取説制作の業務全般を担当。テニスとわんこをこよなく愛する。ライターを名乗ることもあるが、ペンよりもラケットかリードを握っていることが多いかも。

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