「DRY」「KISS」「YAGNI」──この3つの言葉、耳にしたことがあるでしょうか?
ITの世界では定番の開発原則ですが、実はシステム開発に限らず、どんな仕事にも活かせる考え方であると言えます。例えば、ムダを減らして効率を上げたり、シンプルにしてミスを防いだり―。ちょっとした意識の違いが、仕事の質をぐっと向上させます。
今回は、基本的な開発原則3つを解説しながら、システム開発の現場で意識している点をご紹介していきます。
専門がIT分野ではないあなたの業務にも役立つヒントがきっと見つかるはず。営業担当とIT担当者の対話形式で少しずつ紐解いていきますので、ぜひ最後までお付き合いください。
そもそも開発原則って?
開発原則とは、ソフトウェア開発における基本的な指針のことです。
より効率的に、より品質の高いものづくりをするために、先人たちが培ってきた知恵とも言えます。開発原則は、時代や技術の変化に合わせて常に進化し続けていますが、普遍的な原則も多く存在します。
IT分野での開発における「道しるべ」とも言え、これらの原則に沿って開発を進めることで、コードの品質や保守性、開発効率を向上させることができます。
プロジェクトの目標を達成するために、どのような考え方で、どのような手順で開発を進めるべきかをメンバーが共通認識を持つ指標になるものです。
登場人物紹介
これから3つの原則を紹介していきますが、今回は、素朴な疑問をぶつける営業女子と、ちょっとオタク気質なIT男子の掛け合いに置き換えて考えてみたいと思います。
明日から使える考え方のヒントについて、対話形式で少しずつ紐解いていきましょう。

クレス
新卒3年目の営業担当。なにごとにも好奇心旺盛で、気になることはすぐに質問、チャレンジするタイプ。
座右の銘:やらぬ後悔よりやって後悔。

テック
クレスの同期入社のIT担当者。開発者の想いがこもった「技術」が好きで、ちょっと理屈っぽい。
座右の銘:プログラムは思った通りには動かない。書いた通りに動く。
オススメ原則①:DRY原則
ある日のお昼休み、クレスさんが休憩中のテックくんを発見して話しかけました。

おーーい、テック!お疲れ様!そうそう、IT業界って「ドライ」が大事なんでしょ?確かにテックってクールというか、感情表現薄めだよね。



いやいや、関係ないでしょ!あ…分かった。たぶんDRY原則のことを言ってるんだな。それは“Don’t Repeat Yourself”(同じことを繰り返すな) っていう開発の考え方のことだよ。



へぇー!でも、営業の先輩には「プレゼンは何度も繰り返し練習しろ」って指導してもらってるけど、それと矛盾しない?



それは「スキルを磨くための繰り返し」だから別の話!
DRY原則が言ってるのは、ムダな作業を減らして効率を上げるってこと。例えば、クレスはプレゼン資料を毎回ゼロから作ってる?



いやいや、そんなの効率悪すぎるでしょ! テンプレートを使って、それをベースにして作っているよ。



それがまさにDRY! 共通のフォーマットを活用すれば、時短とミスの削減になるよね。



確かに! 一から作るより、必要な部分を変えるだけの方が楽だし、質も安定しそう。
でもさ、たまにテンプレの文面を変えることもあるよ? それってDRYの考え方に反してしまうのかな?



いや、それはカスタマイズ だからOK! でも、もし営業チームの全員が、テンプレをそれぞれのパソコンにバラバラに保存してたらどうなる?



うわ…それは面倒くさい! ひとつ修正するたびに、全員のテンプレを更新しなきゃいけないし、バージョン違いが発生しそうな匂いがプンプンする…。



それがDRY違反ってやつ。テンプレは一か所にまとめて、みんながそこを参照する仕組みにするのが大事なんだ。



なるほど!手間とミスを減らせるんだね。
でもさ、なんでもかんでもDRYにしちゃうと、逆に柔軟性がなくなりそうじゃない?



おっ、いいところに気づいたね! 共通化しすぎると、ちょっと変更したいときに影響が大きくなりすぎるから、適度にDRYを意識するのがポイントだよ。
DRY(ドライ)原則:Don’t Repeat Yourself
「同じことを繰り返さない」工夫をする考え方。
✅ 同じ作業を繰り返さない
✅ 共通の作業を整理して、全体の作業時間を節約する
✅ 修正と管理をラクにして、ミスを減らす
ITの現場では、処理や情報の重複を減らすことで、開発や業務の手間の削減につながり、コストの圧縮に寄与しています。「一度作ったら、効率的に使い回す」。もちろんミスの軽減にもつながるため、納品物の品質維持にも役立つ考え方です。



なるほど! じゃあ、私も今日から「DRYを意識する営業」を目指してみようかな!



うん、それめっちゃ大事!
でも、感情表現が薄めな営業担当はご勘弁!



あ、さっきの根に持ってる!あれは冗談だって!
よーし!午後もDRYで効率よく仕事を進めるぞー!
オススメ原則②:KISS原則
別の日の定時後、残業中のテックくんの席にクレスさんが現れました。



テック、お疲れー!
ねえ、IT業界の人たちってKISS推しがほとんどって本当?



おっ、よく知ってるね! って、もしかしてバンドグループのKISSを想像してない? 🎸



え、バレた?KISSって言ったら、ド派手なメイクしてるあのロックバンドしか思い浮かばなくて…。



ロックな勢いも大事だけど、IT業界のKISSはもっとシンプルな話さ! “Keep It Simple Stupid”(シンプルでわかり易くしろ) っていう開発原則のことを指すんだ。



なるほど…ロックな見た目とは真逆の考え方だね。



シンプルだからこそ、キャッチーで多くの人に伝わる!システムも、無駄に複雑にすると本質が伝わらなくなるんだ。



あー、なんとなく分かってきた!
そういえば、私が作った営業資料でもデザインに凝って、情報を詰め込んだものって意外とウケが悪かった気がする…。



そう、それがKISS違反!
情報を詰め込みすぎると、見る側が混乱して結局伝わらないんだよね。システムでも同じで、複雑にしすぎると使いづらくなるし、開発と保守も大変になる。



でもさ、シンプルにしすぎると、なんか味気なくならない?



いい視点! KISSは 「本当に必要なものだけを残す」ってことなんだよ。



確かに! じゃあ、営業資料でも「目立たせるところは目立たせつつ、余計な情報は削る」みたいにすればいいのかな?



その通り! まさにそれがKISS原則だね。
KISS(キス)原則:Keep It Simple Stupid
複雑さを排除し、シンプルで伝わりやすさを貫く考え方。
✅ とにかくシンプルに!(でも手抜きはしない!)
✅ 複雑すぎると使いにくいし、ミスも増える
✅ 余計なものを削ぎ落として、本質を残す
これらの原則を守ることで、 「バグの温床」となり得る複雑なコードばかりのシステム構築を避けることに繋がり、初期開発だけでなく、リリース後の修正コストの抑制にも寄与できます。
なによりユーザー目線で分かりやすいUI・設計となることが最大のメリットとも言えます。



KISSって、システム開発の現場だけじゃなくて仕事全般に使えそうだね!営業活動でも意識してみる。



いいね! KISSを意識すると、伝わりやすい資料や分かりやすい提案ができるはず。ほら、KISSの曲みたいに、シンプルでキャッチーなほうがウケるってことよ!



よーし!KISS精神で大事なことをシンプルに伝えられる、ロックな営業を目指すぞ〜!
オススメ原則③:YAGNI原則
月曜日の朝、ちょっと早めに会社にきて就業前に本を読んでいるテックくんに、思いがけず早めに会社に着いてしまったクレスさんが話しかけます。



おはよう、テック!そういえば、ITでは「オグニ」が大事って聞いたけど、やっぱり最後は神頼みってことだよね。分かる、分かる!



いやいや、それはクレスの地元の神社の名前でしょ!
ITで大事なのはYAGNI(ヤグニ)!“You Aren’t Gonna Need It”の頭文字を集めた言葉で、開発の重要な考え方なんだ。



「あなたはそれを必要としないでしょう」って…
え?それだと仕事もらえないんじゃ?



そういう意味じゃないよ!YAGNIは「今、本当に必要なものだけ作ろう」っていう考え方。例えば、クレスは提案内容を考えるときに、「将来的に必要かも?」って色々な要素を入れすぎちゃうことない?



あるある!私、アイデアが無限に浮かんじゃうから、つい色々盛り込んじゃうんだよね。



それが危険! 使うか分からないものを最初から作ると、コストと管理が大変になるんだ。YAGNIは「今、これが本当に必要か?」って基準で判断して必要なものに集中する考え方だよ。



なるほど!でもさ、後で「やっぱり必要!」ってなったら?



そのときがベストなタイミングだよ。ITの世界では、「必要のないものを作ること自体がリスク」なんだ。
無駄な機能を作ると、メンテナンスコストが増えるし、せっかく開発したのに使われなかったら悲しい。余計なものが多いと、シンプルな設計が崩れてバグが増える可能性すらあるしね。



この前準備したプレゼンは、情報を詰め込みすぎて「結局どれが大事なの?」って先輩に突っ込まれた…。



それそれ!だからYAGNIを意識して、今必要なものだけに集中するのが大事。
YAGNI(ヤグニ)原則:You Aren’t Gonna Need It
本当に必要なものを吟味して、余計な準備による混乱を防ぐ考え方。
✅ 必要になるまで作るな!
✅ 無駄な機能はコストとリスクを増やす!
✅ シンプルに、「今本当に必要なものだけ」作る!
機能の肥大化は開発コストを上昇させ、プロジェクトのスピードも鈍化させます。必要な機能を必要な時に、極力早く提供するー。これも弊社のシステム開発部門が心がけていることのひとつです。



ところでさ、テックのデスクにある謎のガジェット達って、YAGNI的にはどうなの?



えっ…あれは将来のための投資っていうか、もしかするといつか必要になるかもっていうか…。



ほ~ん? まあいいや、そろそろ始業だね! 今週も頑張ろう!



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開発原則がもたらす「最適化」で、あなたの業務も効率化を!
システム開発の世界で重要視されるDRY・KISS・YAGNIの3つの原則を紹介してきました。
IT部門に限らず、営業や事務などのさまざまな業務にも活かせる考え方です。日々の仕事もこれらの原則を意識してみてはいかがでしょうか。
シンプルで効率的な働き方を!
DRY – 同じ作業を繰り返さず、仕組み化する
KISS – 伝え方や手順をシンプルにする
YAGNI – 必要なことだけに集中し、ムダをなくす
開発原則は、単なる技術的な知識だけでなく、チームワークやコミュニケーション、顧客との連携など、様々な側面から開発を成功に導くためのヒントを与えてくれます。
同時に、あなたがIT担当者に言われたアドバイスやコメントの本質、裏側が少し垣間見えたのではないでしょうか。頭の中でこの原則を使ってIT担当者のコメントを変換してみることで、より相互理解が深まり、プロジェクトの進捗もスムーズになるかもしれません。